ひらの税理士事務所

読むと冒頭から情景がすっとうかんできて、 その映像的な動きが二連以降にスムースに(遠景、近景、至近へと)繋がっていき、 同時に自然に物語(ドラマ)の流れに誘われてゆくという、 構成的にもしっかり作られている作品だと思うが、この詩の三連目の後半に、酒が恋心の比喩のように使われている。

林檎畑で美しい少女が林檎を自分に手渡してくれた。
そういうささいでさりげないだけだったかもしれない行為に対する過剰な思い入れ(^^;が、 「初恋」のきっかけになるとは、経験者ならわがことのようにわかると思う。
作者は、少女から林檎を受け取ったそのとき、自分が少女に恋をした(のを確信した)、 ということを、少女が白い手をさしのべて自分にくれた林檎が「恋の酒」のつがれた盃であり、 それを自分が飲み干したそのだ、という言い方で語っている。
当時こういう抽象詩的な意味合いを含んだ言い方を和文脈の調べで語ることはとても新しかったに違いない。

この詩のように、酒(にまつわること)が情感の比喩のように使われていて、 もうすこし「お酒の詩」というのにふさわしいかもしれない「秋思」という詩が「初恋」のひとつまえに置かれている。