「余」は旅の画工のようだ。その画工がふと考えた。
「山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。
意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
有名な冒頭の文句である。
智も情も意地も結構だが、使いすぎや刺しすぎでは困るというのが言い分だ。
が、このあとがある。
「人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい」
「どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画が出来る」
というふうになる。さらに
「住みにくき世から、住みにくき煩いを引き抜いて、
難有い世界をまのあたりに写すのが詩である、画である。
あるいは音楽と彫刻である」
と続く。