ひらの税理士事務所




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 決算書と資金繰り 
 
 以前、ある高名な経営コンサルタンの経営理論に共鳴した会社のオーナーが三顧の礼を尽くして自社の社長に迎え、経営再建を委任したところ、そのコンサルタントは、毎日の資金繰りに追われ、持論を実践するに至らず、ついにはその会社を解散したという話を聞いたことがあります。現実の経営というのは、理屈どおりに行かないということでしょう。
企業の成績簿である、「決算書」が、その企業の財政状態と経営成績を適正に表示しているかについては、観点の相違によって、見解も別れることでしょう。しかし、あくまでも、生きている、あるいは毎日動いている経営の、ある期間を区切ってその結果を数値で表したのが「決算書」であり、全てを数値で表現するには、おのずと限界が生じます。株主や債権者への報告は、結果がよければオーケーかもしれませんが、経営者自身にとっては、やはり不十分でしょう。野球で、目のさめるようなクリーンヒットもあたりそこないのラッキーヒットも同じ安打として記録され、その内容までは記録されなません。しかし、監督にとっては、その先の戦略を立てるのに重要な判断要素となるのと似ているといえるでしょう。
経営の結果報告書である「決算書」と資金繰りの関係は、これも例えて言うならば、車の運転と燃料のようなものです。いくら立派な車でもまたその大小にかかわらず車は燃料がなければ動きません。その燃料が資金なのです。車の型と走った距離を表示したのが決算書であり、燃料を絶やさずに調達するのが、資金繰りです。
経営者や、その補佐的立場の方にとっては“大きな関心事”のひとつが『資金繰り』です。ところが、先述のように「決算書」(貸借対照表・損益計算書)だけではなかなか資金の動向を判断することは困難です。
そうした中で、よく疑問に思われる事柄をいつくかご紹介します。経営に生かす“財務”のヒントになれば幸いです。

① 利益は出ているのにお金が無い状態
“勘定合って銭足らず”という言葉を聞いたことはありませんか?
損益計算書上においては利益が出ているのに、資金が思っているほど残っていない状態を言いますが、なぜ、そんな状態になってしまうのでしょうか?
それは、「収入」・「支出」、と「収益」・「費用」の捉え方が違うことが原因です。利益は、収益と費用の差額(損益)であり、収入と支出の差額が資金の残高になります。完全な現金主義、つまり収入=収益、費用=支出ならば、利益と資金の残高は一致するのですが、現行の会計制度は、“発生主義”を採用しており、両者は一致しないのです。「掛売上」は収益ですが、資金の収入ではありません。また、「現金仕入」は支出ですが、販売しない限り、在庫(資産)として処理され、費用にはならないのです。このよう、収支と損益の不一致が“勘定合って銭足らず”現象を起こすのです。儲かりながらお金を残すということは実に難しいことなのです。

② 資産は増加しているのに資金は減少している状態
なぜ、バランスシート(貸借対照表)の左側(借方)の資産の総額は増加しているのに、お金(資金)が減少しているのか?と不思議に思われたことはありませんか?
ちょっと考え直せば「ああ、そうか」とわかるのですが・・・、買い物と同じで、モノ(財産)を買ったからですね。
バランスシートの左側は、大雑把に言えば、資金である現金預金と、短期間にお金(資金)に変わる予定のモノ(売掛金などの流動資産)と商売上必要なものとして買ったモノ(車、備品などの固定資産)のリストです。ということは、当然、買い物をすれば、資産の総額は増加するけれど、資金は減少して、表題のような状態になりえるのです。

③流動比率という訳のわからないもの
“流動比率”とは、1年以内に資金化される流動資産の同期間で返済する流動負債に対する割合のことです。従って、一般的には100%以上の数値が必要であるといわれています。
(イ)低くても安全な例
・たとえば、ある会社(3社)の流動比率が、A社20.5% B社23.8% C社18.2%であったとします。3社とも100%どころか50%にも達していません。こんなに流動比率が低くて危険ではないのでしょうか。その会社の資金の回転、つまり『流動資産』と『流動負債』の“回収・支払期間”を見ると、答えがわかります。流動比率は回収資金と支払資金との比較をしているわけですが、資金繰りは1年単位でみるのではなく、毎月の収支が問題です。上の例で揚げたのは電力会社でありますが、流動資産のほとんどが、1ヶ月以内に資金化され、他方、流動負債は数ヶ月かけて支払う借入金などであるため、毎月の支払額は流動負債額の数分の1で足りることになります。
つまり、回収資金である現預金はすぐに借入金の返済資金になるので、低い数値であるが、流動負債は時間をかけて支払われるため、額が多いという状態であったのです。このケースのように、流動比率が低くても即座に危険といえない場合が多々あるのです。ちなみに、電力会社の場合は固定資産に注目されることが一般的となっています。
・短期借入金は『流動負債』ではないケース
1年以内に返済期限がくる短期借入金は、決算書には『流動負債』として表示されます。しかし、この短期借入金を本当に1年以内に返済しているでしょうか。返済期限が来ても実際には完済せず、再度借り替えをすれば、短期借入金は減少することがなく、根雪のように固まった状態で推移することになります。表示上では『流動負債』でも、事実上は固定負債化されていたということになります。
(ロ)比率が高ければ優良企業か? 高い流動比率の企業が倒産
民事再生法を申請して事実上倒産したある会社の個別財務諸表を見てみると、一貫して高い流動比率を示していました。つまり、流動比率から問題点を指摘するのは困難だとということが立証されたことになります。
最近では流動比率で安全性や優良性を判断することはありませんが、いずれにしても、資金は流動的なものであり決算日やある特定の日だけの残高で財務状況が安全であるかどうかを判断するには限界があると思われます。

 制度会計は、過去の経済取引を集計記録して報告することが目的です。しかしながら企業活動の全容を報告するには十分とは言えません。最近では“キャッシュ・フロー”の重要性が強調されています。キャッシュ・フローは経営の客観的な“現物成果”であり、『現実』を表現します。けれども現実とはあくまで「今」であり、将来に予想される経営実態の影響はキャッシュ・フローで表現することはできないという限界が残ります。当然、期間損益計算の重要性が低下するわけではありません。
過去会計と現在の現物成果、そして未来を予見する「利益」を複眼的に経営管理に利用することが大切だと思われます。