ひらの税理士事務所




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 親の常識・非常識
 
「何でうちの子がリレーの選手に選ばれないのっ!」と担当教師に文句を言う。自分の子供が注意されたことに逆上して職員室に乗り込み、延々とクレームをつける。「○年○組の○○ていう子、クラスの迷惑だから学校に来させないでちょうだい!」と教育委員会に要求する。「うちの子はピーマンが嫌いだから、給食にピーマンを入れないで」と注文する。宿題を忘れたぐらいで子供を叱るとは一体どういうことかと苦情を言う。「下校途中に友達とけんかしてケガをしたから慰謝料を払ってほしい」と、弁護士を連れて来たり、「うちの子がいじめられた」と、クラスの子供達に聞き取り調査を行い、加害児童の調書を数十ページにわたって作成するなど、法的措置をとろうとする親。
 これらは、実際の話だ。学校に無理難題を言いつける、いわゆる“モンスターペアレント”のあまりにも非常識な行動が、今問題となっている。担任教師の自宅に電話をかけて、先のようなクレームを、延々と話す保護者がいるだけではなく、学校や教育委員会が苦情問題を担任教師に丸投げするという事態も起きている。
 そのせいで、教師のストレスも極限に達し、精神疾患で休職に追い込まれるという状況になっているようだ。
 こうした事態に着目し、学校、教師の悩み相談サービスを行う企業も出てきた。教師たちの抱える悩みや、クレームへの対応方法などについて、専門家がアドバイスをしてくれるというのである。また、保護者に訴訟を起こされた際の訴訟費用を負担する“訴訟費用保険”や“教職員賠償責任保険”に個人で加入する教師も増えているという。東京都の公立校の教職員のうち、この種の保険に加入している人は、2000年度は1,300人であったのに対し、2007年度は21,800人と7年間で16倍以上の伸び率であったという。(H19.7.12付毎日新聞記事より)
 もはや、教師は一般企業の『悩み相談室』に頼らなければやっていけなくなるのだろうか。

 学校と保護者が敵対関係のようになってしまった原因として、「地域の住民同士のコミュニケーションが希薄化し、学校で発生する問題を共有する場所がなくなったこと」や、「いじめなどの問題を親が学校に相談しても、担任教師や学校が真剣に取りあってくれないこと」、「学校側の相次ぐ不祥事で不信感が高まっていること」など、様々な理由が挙げられているが、個人的には高学歴化社会が一番の原因ではないかと思っている。
 社会が高学歴化し、教師と保護者の立場が対等もしくは逆転したことが種々の問題の基本的な要因となっているように思う。
しかし、それと同時に、高学歴社会に生きる子供にとっての“学校”の存在意義が昔とまったく変わってきたことも大きな原因ではないかと思う。
本来、学校とは、勉強は当然のことだがそれ以上に、集団生活を学ぶ場であり、友人、先生との人間関係を通してコミュニケーション能力や人間性を育てる場であると認識し、社会が求めているものであった。それが現代では、そのようなことを求めなくなっているように思えるのだ。
 現代の親が我が子の将来に望むもの、それは単純に言えば、立派な肩書きのみではないだろうか。大企業に就職し、安定した収入を得て、親戚、友人に自慢できることこそが、「立派な大人」の条件であり、そのためには、まず良い大学に入らなければならないのであって、とにかく勉強,勉強となるのではないのか。同じクラスの子に負けてはいけない。蹴落としてでも我が子が一番でないといけないのである。この過程においては、“人間性”は必要ない。思いやっている暇はないのである。
 学校は、単に受験に必要な勉強を教わる場になってしまったようだ。さらに進めば、受験の役には立たない学校に対し、「勉強は塾で教えてくれるから」と、学校を平気で休ませて旅行に行く親もいるほどである。
 小さい頃から私立の有名学校を受験させることが現代の主流になり、保育園から『お受験』である。当然、学費も高くなるから、それなりのサービスを受け、ある程度のわがままを聞いてもらうことが当たり前だと思う。学校は、ホテルやデパートと同じ“サービス業”と見なされているのだ。

 しかし、たとえそうやって念願の大企業に就職できたとしても、それから先は、モンスターペアレントも手が出せないのだ。競争社会である限り、一人で立ち向かわなければならない。社長に「うちの子が何故出世しないのか」と、クレームをつけるわけにはいくまい。人間一人では生きていけないのだ。結局、人間関係を構築できないものは、ママの元へ戻り、ママのお金で生きていくしかあるまい。
 大企業に入ることがゴールではない。入った後をどう生きていくかが肝心であって、それを子供に教えるのが学校や親の役目であると思うのだ。それに気がつけば学校の存在意識も変わるはずだ。今更のことかもしれないが、教師のあり方にも問題があるとしても、モンスターペアレントが跋扈する時代がいいはずはない。