ひらの税理士事務所




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 品 格  
 
昨年、「イナバウアー」と「品格」が流行語大賞に輝いた。

荒川静香選手の活躍は、日本中を感動させた。子供から年輩まで「イナバウアー」に酔った。もともと、イナバウアーという言葉は、一般には馴染みがなかったし、覚えにくい言葉でもある。荒川選手は日本人の大きな期待に見事に応え、みんな拍手喝采をした。そして「イナバウアー」を真似し、「イナバウアー」と口にしたのだ。わかる。「イナバウアー」はわかる。

他方の、数学者、藤原正彦氏の「国家の品格」もベストセラーとなった。ちなみに、発行部数は200万部を超えたといわれている。

以来、日本人の品格、女の品格、男の品格、政治家の品格等々、日本人の品格や道徳感など現代の日本の風潮に警告する書物が数多く出版されている。

イナバウアーが、荒川選手の引退とともに消え去ろうとしているのに対し、こちらは、隆盛の一途である。

ところで、「品格」とは何か。辞書には、「その人、物に備わっている上品さ、気品、品位」とある。つまり性質や人柄が上品で気高いことである。まさに格調高くて、いい言葉である。が、もうひとつはっきりしない。なんとなく取り澄ました感じもする。とっつきにくい雰囲気もある。

その「品格」という言葉がなぜ流行したのか。

ある調査によれば、多くの人が、最近の風潮として、日本人が「礼儀正しさ」や「謙虚さ」を忘れつつあり、これが各種社会問題の背景、一因になっていると考えており、品格・道徳観に関する意識が高まっているとある。そして、道徳観の維持・回復のためには、家庭におけるしつけが最も重要とされており、家庭における人間教育の重要性と大人の意識改革の必要性が再認識される結果となっていると報告している。

まったく、周りを見回したとき、容易に、下品、厚顔、自己中心、破廉恥、犬猫にも劣る言動を数多く見るものである。経済界でも、「法に触れなければ何をしてもよい」という行為が脚光をあびた。政界も官界もまた醜聞が絶えない。およそ、品格がどうのという感覚とは無縁の様相である。

こういった風潮への危機感が、前述の著書への潜在的ニーズをいっそう高めていることは理解できる。だが果たして、品格という概念を理解しているのかが問題と思われる。畜生にも匹敵する下品な言動は理解できても、そういう言動をしなければ、すなわち、上品であるとはいえまい。

戦後、品格などと言った、教育やしつけがあったのだろうか。前述の調査報告にある、家庭における人間教育の重要性と大人の意識改革の必要性が再認識されていることは、頷けるとしても、果たして、品格をもった大人や、家庭がいかほどなのか甚だ疑問である。

言葉としては多少なりとも理解できるにしても、信念や価値観として刻まれているかに関しては悲観的にならざるを得ない。

品格ある女性として、美しく身なりを整え、魅惑的な笑顔を振りまきながら、エレガントな立ち居振る舞いを目指したところで、いささか滑稽に写りはしないか。頭隠して尻隠さずにも思える。

この競争社会にあって、なりふり構わず生きる者の本音の中に、品格という意識が果たしてあるのか、まさに疑問である。

しかし、こうした、書物が読まれるのは、多くの人が自省し、新たな学習への意志だと好意的に捉えるべきなのかもしれない。国家として、人として、のべつのおもねりや、迎合を廃し、確固たる信念に従った、首尾一貫の、凛とした態度を貫きたいものである。

とは思うが、やがて一時の流行語として「品格」も消え去るのであろうか。